海外に進出しようと計画した場合、「現地法人」で進出した方が良いのか、
それとも「支店」という形の進出が良いのか、
そんなお悩みをお持ちの中小企業の事業主様も多いと思います。
本日は当社でもよくご相談を頂く、
「海外の現地法人」と「海外支店」の違いについて、ご説明させて頂きます。
海外支店の定義とは?
海外支店というのは、独立した事業体ではありません。
意思決定や、債権債務の責任は最終的に本国の本社にあります。
また、支店はあくまで本社に内包されるものとして扱われる、事業体です。
この2点を理解していただくと、支店と現地法人の違いが分かりやすくなると思います。
支店は会社の一部を構成するもので、本社に帰属している事業体です。
海外に支店を持つという事は、
日本の事業体の一部を海外に置くというイメージです。
オフィスが海外にあっても、日本の会社という事ですね。
という事は、外国にありながら税務等は、
本社が帰属する国の法律に準ずるという事になります。
支店の理解とはちょっと離れますが、
ここで少し、気を付けて頂きたい事があります。
「海外で営業活動を実施する場合の最も簡便な方法は、支店を置くこと」
と明言してるサイトがありました。
このような情報が、シンガポールにも当てはまるような印象を受けかねません。
他国の法人設立に関して、それほど知識が豊富とは言えないのですが、
少なくともシンガポールにおいては支店設立よりは、
現地法人設立の方がはるかに簡単にできます。
これは、海外からの企業誘致を国家設立当時から進めている
シンガポールの特徴の一つでもあります。
各国それぞれ事情は異なりますので、正しくない情報で混乱しないためにも、
まずは進出予定の国に対しての、しっかりとした調査が必要だと思います。
シンガポールでの支店設立のデメリットとメリット
海外での「支店」という意味合いが、少しお分かり頂けましたでしょうか?
次は、シンガポールに支店を設立するメリットとデメリットについてです。
デメリット:
シンガポールの法人税の恩恵が受けられない。
上記でご説明させて頂いたように、本社と支店は同一の事業体であるため、
支店の利益はシンガポールで発生したものであっても、
本社が所在する国の法人の所得とみなされます。
その為、日本で法人税の申告を行わなくてはなりません。
さらに海外支店の所得については、
原則として現地の税制により、現地においても申告を行う必要があります。
日本とシンガポールで税務申告を行うと、
両国で二重課税が発生することになってしまいます。
それを避ける為に、外国税額控除制度の規定が整備されています。
ただ二重課税が解消されたとしても、海外支店の所得については、
日本の税率が課されることには変わりはないため、
せっかく利益を上げてもシンガポールの低い税率の恩恵を受けることができなくなります。
ポイント:はじめから利益が大きく見込める場合は、支店より法人がおススメです。
メリット:
本社の節税対策となる/資金融通が簡単に行える。
支店は本社と同一の事業体となりますので、
シンガポールの支店で赤字が生じた場合、
本社の所得と相殺できることになります。
また、本支店間の資金の動きは原則自由であるという点もメリットとして挙げられます。
大きな金額を動かす機会の多い、「銀行」「建設会社」「商社」などが、
現地法人を設立せずに、支店を設立するのは、これらの理由によるところが多いです。
ポイント:初期に大きな赤字を見越している場合、本社(親会社)からの資金の動きが活発な場合は、支店を設立して様子を見る。
シンガポールでの支店設立条件の変更について。
2014年10月にシンガポールでは、会社法の改正案が可決されました。
改正案の中には、支店の設立条件についても触れています。
この改正案で、今まで2名必要だった現地の代理人が1名に変更になりました。
シンガポールにおいては、法人設立の方が圧倒的に手軽でしたが、
この改正で、少し支店開設が簡単になりました。
シンガポールの現地法人とは
次は、現地法人について見ていきましょう。
法人登記を行う場合、株主が法人になるか、
あるいは個人が株主になるかで会計上で多少の違いが出てきます。
個人の株主の場合は、完全に一つの独立した事業体とみなされますが、
法人が株主となった場合は、独立した事業体である事は変わりないのですが、
会計時に株主となっている法人の財務諸表の提出が必要となってきます。
もちろんすべての書類は英訳の後、公文書化が必要です。
日本の決算書の提出や、日本の税務署のチェックなどいろいろ煩わしい点も出てきますので、
日本の法人が株主になる意味やメリットを十分検討したうえで、株主の決定をされる事、
おススメいたします。
支店と比較した現地法人のメリットとデメリット
今回は、支店と比較したメリットとデメリットに焦点をおいてご説明をさせて頂きます。
シンガポールに現地法人を設立するメリットとデメリットについては、
以前にブログでご紹介させて頂いておりますので、下記のリンクをご覧ください。
▶ シンガポールに法人を登記する事のメリット
▶ シンガポールに法人を登記する事のメリット・デメリット:まずはデメリットから。
メリット:
シンガポールの低税率の法人税の利点を享受できる
シンガポールに登記した法人は独立した事業体となるため、
たとえそれが日本の親会社の資本で構成されていても、
税金の納税先はシンガポールとなります。
ですので、シンガポールの低い法人税率の利点を享受する事ができます。
低税率以外にも、日本の会社法にはない制度のもと、
ビジネス上有利な展開が可能となります。
デメリット:
日本に本社があり、シンガポールに子会社としての位置づけの法人を設立した場合
一番の面倒な点は、本社からの資金移動です。
支店であれば、資金の移動は原則自由ですが、
本社からのシンガポール法人への資金移動は、
貸付金や増資といった形で行われ、
その度に正式な書類を作成してACRAへ届ける必要があります。
一部で、デメリットとして、法人格の解散が複雑と
説明をしている情報もありますが、
シンガポールでの法人閉鎖に関する手続きは、
会計の届け出および銀行口座閉鎖さえきちんと行っていれば、
それほど煩雑なものではありません。
但し、完全に法人が閉鎖されるまでは、
届け出を終えてから最低6か月ほどかかるので、注意は必要です。
支店と現地法人の違いを表にまとめてみました
これまでご説明させて頂いた二つの事業体の違いを、簡単に表にまとめてみました。
現地法人 | 海外支店 | |
社名 | 親会社と同一の会社名を使用する必要はない。 | 本社と同一の会社名を使用して登記しなければならない。 |
登記 | シンガポール会社法に準拠した定款を作成し、登記を行う。 | 本社の設立証明書、定款、取締役をシンガポールに登記する |
責任者 | 会社の経営は、取締役がその責任を負う。 取締役1名以上(最低1名はシンガポール居住者)を選任。 |
支店の経営は、代理人がその責任を負う。 代理人1名以上(シンガポール居住者)を選任。 |
決算日 | 決算日は親会社と同日である必要はない。 | 決算日は本社と同日でなければならない。 |
税務上の居住性 | 居住法人として取り扱われる。 | 非居住法人として取り扱われる。 |
租税条約の適用 | 居住法人として、シンガポールと他国との租税条約の適用を受ける。 | 非居住法人は、シンガポールと他国との租税条約の適用を受けない。 |
親会社又は本社から の送金 |
親会社からの送金は、資本金や借入金等として行う。 | 本社からの送金は、同一会社内の資金移動とみなされ、自由に行うことができる。 |
事業の終了 | シンガポールの会社法に基づいて解散手続き行う。 | 事業終了の通知を行う。通知を行ってから12ヶ月後に登記が抹消される。 |
社名 | 親会社と同一の会社名を使用する必要はない。 | 本社と同一の会社名を使用して登記しなければならない。 |
登記 | シンガポール会社法に準拠した定款を作成し、登記を行う。 | 本社の設立証明書、定款、取締役をシンガポールに登記する |
責任者 | 会社の経営は、取締役がその責任を負う。 取締役1名以上(最低1名はシンガポール居住者)を選任。 |
支店の経営は、代理人がその責任を負う。 代理人1名以上(シンガポール居住者)を選任。 |
決算日 | 決算日は親会社と同日である必要はない。 | 決算日は本社と同日でなければならない。 |
税務上の居住性 | 居住法人として取り扱われる。 | 非居住法人として取り扱われる。 |
租税条約の適用 | 居住法人として、シンガポールと他国との租税条約の適用を受ける。 | 非居住法人は、シンガポールと他国との租税条約の適用を受けない。 |
親会社又は本社から の送金 |
親会社からの送金は、資本金や借入金等として行う。 | 本社からの送金は、同一会社内の資金移動とみなされ、自由に行うことができる。 |
事業の終了 | シンガポールの会社法に基づいて解散手続き行う。 | 事業終了の通知を行う。通知を行ってから12ヶ月後に登記が抹消される。 |
まとめ
支店、現地法人共にメリット・デメリットはあります。
また海外に進出する目的によっても、どちらの形態で進出する方が良いかが異なってきます。
まずは、シンガポールでどんな事業を行っていくのか、その事業に適した進出方法は何かを事前にきちんと把握する必要があると思います。
当社ではシンガポールヘ進出される企業の皆様、
また移住をお考えの皆様のサポートをさせて頂いております。
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