シンガポールの二つのソブリンファンドと日本の国民年金

sovereign funds

世界の中でも、健全(しかも、戦略的)な国家財政運営には定評があるシンガポールですが、資源を全く持たないこの小国は、どのようにして国家財政を運営しているのでしょうか。

シンガポールには、政府が運営する二つの投資会社(ソブリン・ウエルス・ファンド)があります。

本日は、シンガポールの国家の財源の一部を捻出している、この二つのファンドと、世界のソブリン・ファンドについて、少しご説明させて頂きます。

ソブリンファンドって何?

ソブリン・ウエルス・ファンド: Sovereign Wealth Fund、略:SWF)は、政府が出資する投資ファンド日本語では、主権国家資産ファンド政府系ファンドなどと称されることもある。

ウィキペディアより。

はい。
ソブリン・ウエルス・ファンドとは、政府が運営しているファンドの事です。
もともとは、豊富な天然資源を財源としてファンドを運用している国が多かったようですが、近年では、国家財政運営の為に、積極的にファンド運用を推し進めている国も多くなりました。シンガポールはその草分け的存在です。
多くのソブリン・ファンドは、将来に向けた資金の蓄え、財政赤字が膨らんだ場合の埋め合わせ等の目的で運用されています。

目次

シンガポールは、二つの政府系投資会社があります。

政府投資公社(GIC)とテマセク・ホールディングスです。
それぞれ異なった投資先に投資をしており、世界でも有数の運用成績を上げています。
以下、ひとつずつ詳しく見ていきます。

シンガポール政府投資公社ーGIC

▶ GIC Private Limited (クリックすると、GICのサイトに飛びます)

GICは1981年、シンガポール政府によって、外貨準備を運用するために設立されたファンドです。
2016年3月現在、シンガポールを除く世界7か国の金融拠点9ヶ所に,事務所を構えています。
その投資先は、世界の「株式」「債権」「不動産」「外国為替」「コモディティ」「プライベートエクイティ」等多岐に渡っています。

また、GICの不動産部門は日本においても、積極的に投資を行っています。

例えば、
1996年 汐留シティセンター:三井不動産との合弁。
2008年 ウェスティンホテル東京:日本に法人を設立。

現在ソフトバンクが保有する、ヤフオクドームも以前はGICの子会社が保有していました。

2015年3月末時点での、過去20年のリターン年率平均は、4.9%。
投資先の内訳は、アメリカ大陸43%(前年比1%上昇)、ヨーロッパ25%(同4%下落)、アジア30%(同3%上昇)となっています。

現在、政府の国家予算の約15%(8ビリオンSGD)はGICの運用利益で賄われています。
因みに、1981年の設立時の運用資産:39億米ドル。
それがわずか20年足らずで、2008年 3440億米ドルと100倍近くなりました。

テマセク・ホールディングス

▶ Temasek Holdings

1674年設立された、テマセク・ホールディングスは、もう一つのシンガポールの政府所有の投資会社です。
ちなみに「テマセク」とは、シンガポールの古い呼び名です。
2015年の時点で、従業員数は530人。その30%以上は、27か国にもおよび外国籍の人々です。

2015年3月期の投資実績は、年間の投資利回りにあたる株主総利益が19.2%。過去20年のリターン年率平均は、7%。素晴らしい運用成績ですね。

2015年3月期の運用資産総額は、2,660億シンガポール・ドル(約22兆6,100億円、1Sドル=約85円で換算)。6年連続で過去最高を更新しています。

テマセク・ホールディングスは、世界で最も高評価の投資会社のうちの1つであり、ムーディーズによる格付けは、「Aaa」。
スタンダード・アンド・プアーズによる格付けは最高値の「AAA」となっています。
ここまで格付けの高い投資会社ってほかにあるのでしょうか?

1974年の設立時の運用資産:1.5億米ドル 2015年 2050億米ドル
こちらは、100倍なんてものじゃありません。なんと1300倍以上です!
どちらの投資会社にも共通しているのは、世界中から優秀な人材を集め、国の大切な資産を有効に運用していくことに、最新の注意を払っているという事です。

しかし、国家の資産を40年で1,000倍にしてしまう、シンガポール。
本当に戦略的な国ですね。頭が下がります。

世界の主なソブリンファンド

ここで、世界にはどんなソブリンファンドがあるのか、見てみましょう。
数字が青い国は、主に石油が投資の原資となっている国です。

ファンド名 運用資産額
(USD億)
設立年
1 ノルウェー ノルウェー政府年金基金
GPF
7730  1990
2 アブダビ首長国  アブダビ投資庁
ADIA
 8554  1976
3 中国  中国投資有限責任公司
CIC
7467  2007
4 サウジアラビア  サウジアラビア通貨庁
SAMA
 6324  1952
5 クウェート  クウェート投資庁
KIA
4740  1953
6  中国  中国国家外国為替管理局
SAFE
 5920  1997
7  香港  香港金融管理局
HKMA
 4424  1993
8  シンガポール  シンガポール政府投資公社
GIC
 3440  1981
9  カタール  カタール投資庁
QIA
2560  2003
11 シンガポール テマセク・ホールディングス
TH
 1528  1974

*運用額に関しては、一般に公表されていない場合が多いため、推定ベースとなっています。

石油以外の資産をもとに、しかも東京都23区内と同等の小国が、世界のトップ10の資産を運用しているって、すごい事だと思いませんか?

日本の年金を世界と比較してみます。

ソブリンファンドと、少し離れて、年金基金について少し見てみましょう。

日本には、世界最大の年金基金と言われている、独立行政法人があります。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
その資産額なんと130兆円!
2013年の年金基金のランクがあったので、こちらにご紹介いたします。

資金額で日本のGPIFはダントツ1位ですね。nenkin

*ノルウェーのソブリンファンドは名前は、「年金基金」とありますが、その原資は石油なので、厳密には年金基金とは異なります。

10位のシンガポールのCPFに関して、詳しくは、シンガポールの年金制度ーCPFをご覧ください。
CPFの運用の一部を担うのが、上記でご紹介したGICです。彼らには、国民から預かった資金を確実に増やすという、大きな使命があります。

資金額は大きいが、問題山積のGPIF

シンガポールの人口は日本の20分の1程度です。となると、日本のこの莫大な年金も一人当たりの金額にしたら、いかに心もとない年金であるかがわかりますね。
しかも、この基金を実際に運用しているのは、民間の証券会社等。
2015年度の利回りは、マイナスに転じています。

下記の表は、それぞれの年金の増加率です。
日本の増加率の低さが目立ちますね。このままでは近い将来、マイナスに転じてしまうでしょう。

国民年金基金表

近年、国民年金を政府で運用する、ソブリンファンド化の話題が何度か日本でも取り上げられてきたようですが、現実化していません。

その理由がビックリすぎて、目を疑いました!

130兆円に上る年金積立金の一部運用も検討されているが年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は人件費削減対象で高給のファンドマネージャーの採用は困難でSWFの導入には体制見直しの可能性もある。

”ソブリン・ウェルス・ファンド”-ウィキペディアより。

高給のファンドマネージャーの採用は困難
これって本当に誰かが、発言したのですか?

シンガポールでは、世界中から生え抜きのファンドマネージャーをヘッドハントして、高利回りをたたき出しています。
現在、低い運用成績しか出していない、各投資会社や証券会社へ支払っている手数料を考えたら、どちらのやり方が正しいかは、簡単に判断がつくはずなのですが。

日本の一番の問題は、リスクを負う人が誰もいないという事でしょう。
本当に日本の将来を心配している人なんか、もしかしたらいないのかもしれません。

でも、こうやって世界のソブリン債や年金基金と比べてみると、日本がいかに好条件を全然生かさないまま、ズルズルとマイナスの道をたどっているのかがお分かり頂けたと思います。

国家予算は膨大な赤字を抱え、世界一の資本量を誇る年金もマイナス利回りで先細り。

これから、どんな道を歩んでいくのか?

シンガポールのソブリン債とはちょっと、主旨が離れてしまいましたが、
シンガポールが建国の際にお手本にした国のこの情けなさ。
悲しいですね。

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