4月7日、シンガポールのOCBC銀行(正式名称:オーバーシー・チャイニーズ・バンキング・コーポレーション・リミテッド)が、英国のバークレイズ銀行から、シンガポールと香港のウェルス・アンド・インベストメント・マネジメント事業を430ミリオン・シンガポールドル(日本円344億円相当)で買収した事が、シンガポールの各マスコミによって報道されました。
チャンネル・ニュースアジアの報道 (英語)
バークレイズのウェルス・アンド・インベストメント・マネジメント事業とは
この、バークレイズのウェルス・アンド・インベストメント・マネジメント事業とは一体どんな部門なのでしょうか?
日本でよく耳にする、プライベート・バンキングサービスとは、どう違うのでしょうか?
どちらも、ある一定額以上の預金可能な富裕層をターゲットとする、ポートフォリオ・マネジメント・サービスの一種ですが、最近では、資産の保護に重点を置いたサービスを「プライベート・バンキング」と呼び、運用を重視するサービスを「ウェルス・マネジメント」と呼んで区別することが、多くなってきているようです。
シンガポールの多くのローカル・バンクは、「プライベート・バンキング」セクションを持たない代わりに、「ウェルス・マネジメント」の部門を設けています。
もともと、「プライベート・バンキング」というのは、ポートフォリオ・マネジメントや資産運用だけではなく、もっと広範囲にわたった顧客の資産保護を行うサービスなので、シンガポールでは日本のように簡単には、この言葉を使っていないのかもしれません。*
「ウェルス・アンド・インベストメント・マネジメント」とは、富裕層に特化した「資産運用(ウェルス)」と「投資(インベストメント)」のサービスとでも、ご理解いただければと思います。
バークレイズのアジアにおける「ウェルス・マネジメント&インベストメント」部門は、香港、シンガポール、インドの3拠点ですが、今回の買収対象になったのは、香港とシンガポールのみです。
日本にも、拠点があるような表現をしているのですが、バークレイズのサイトでは、見つける事が出来ませんでした。
香港の詳細については不明ですが、シンガポールのアカウントには、日本人の顧客もかなり含まれているはずです。
実はこの買収、多くの銀行が興味を示していました。
日本では、ほとんど話題になっていないような今回の買収ですが、実はシンガポールの大手3行すべてが、オファーを出していたようです。
そして、日本の、あの証券会社も…
3月4日のブールムバーグ
入札は非公開で行われたため、どこが参加したのかという事は、発表されていませんが、
3月4日のブルームバーグの記事によると、
今回、買収を行ったOCBCの他に、シンガポールの大手2行(DBSとUOB)。そして、日本の野村証券が、興味を示していたようです。
日本の記事は、もとの記事を大分省略してしまっているので、
気になる方は、オリジナルも併せてご覧ください。
2月12日、ロイター
ブルームバーグの記事から、約1か月ほど前にロイターのイギリス版で、入札の事が取り上げられていました。
残念ながら、こちらは日本語版がありません。
ブルームバーグ同様、ビッダーと思われる銀行もバークレー側もコメントはしていませんが、
この時点では、
DBSとOCBCとジュリアス・ベアの3行が名乗りを上げていたようです。
クレディスイスも検討をしていたと、記載されています。
ジュリアス・ベア
このロイター記事に出てくる、ジュリアス・ベアという名前、皆様ご存知でしたか?
実はお恥ずかしながら、私は初めて知りました。
スイスのプライベートバンキングで、なんと世界20か国以上に支店があるそうです。
2012年8月には、
メリル・リンチインターナショナル・ウェルスマネージメント(IWM)を買収。
リーマン後明暗を分けた金融界の、勝ち組の方に位置する銀行ですね。
もちろん、シンガポールにも支店はあります。
昨年からは、日本での富裕層獲得にも力を入れているようです。
この買収から、見えてくるもの
バークレイズの発表によると、銀行の方針としてアジアでのIWM事業は銀行の重要な部門ではないので、売却することを決定した。という事になっています。
バークレイズの戦略の中核をなす事業ではないとの判断に基づき、2016年3月にバークレイズ・ノンコア部門に加えられました。
しかし、それが本当なら、スイスのプライベートバンクである、ジュリアス・ベアが、この買収に興味を示すでしょうか?
また、資金量としては、世界の銀行の中では決して多くない、シンガポールの銀行が、当初の入札額とされる、400ミリオン・シンガポールドルを1割近く上回る、430ミリオン・シンガポールドルも出して、買収する部門でしょうか?
ヨーロッパや欧米には、
未だにリーマンショック時の、大きな負債を抱え込んでいる銀行が沢山あります。
それを取り返すため、中国やアジア諸国で活発な取引をここ数年繰り広げてきた事は想像に難くありません。
現にバークレイズも、つい数年前に「これからはアジアの時代だ」と言って、
中国の富裕層を対象とした、部門の人員を大幅に拡大した事があります。
それが、昨年のチャイナショック勃発です。
今まで、「これからはアジアの時代だ」と言っていた、多くの欧米系の銀行が
「アジアは私たちが、戦う場所ではない」とか
「小さな手数料を争う意味はない」みたいな、本当に自分たちに都合の良い言い訳を探して、
アジアでの業務縮小を進めています。
シンガポールでも、今年から大幅な人員削減や店舗閉鎖を行っている欧米系の銀行が沢山でてきました。
もしかしたら、無茶な中国系企業への投資等もあったかもしれません。
しかしその一方で、負債を持たないキャッシュ・リッチな銀行は、依然として中国を有望な市場としてとらえています。
日本ではあまり報道されない、世界の銀行の動きがシンガポールでは比較的頻繁に入っています。
最後に、
実は、OCBCが欧米系の銀行から、プライベート・バンキングセクションを買収するのは、これが初めてではありません。
2009年には、オランダのINGから、今回の5倍以上の金額の、1.5ビリオン・USドルで、アジアのプライベートバンキングセクションを買収しています。
因みにこの時、HSBCは入札でOCBCに敗れています。
これによって、OCBCはシンガポールで3位だったランキングを、2位に。
しかも、2011年から世界で一番の銀行へのランクインを果たしました。
今回の買収は、前回ほど大規模なものでは無いですが、
前回同様に、ステップアップをしていくのでしょうか?
こうやって見てみると、シンガポールの銀行はやっぱりすごいです。
こんな小さな国が世界の中で、立派に戦っていける意味が分かるような気がしました。
シンガポールの銀行、世界の銀行にご興味のある方は、以下のブログ
▶ 世界最強の銀行はどこの国にあるのでしょう?
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