2023年1月に新設された、シンガポールの就労ビザ”ONE-Pass”を徹底分析

シンガポールは、税制優遇措置やビジネス環境の整備など、
海外進出を検討する法人のオーナーにとって、魅力的な国です。

また、治安の良さや世界的にもレベルの高い教育機関があることなど、
ご家族で移住するにも適した環境と言えます。

しかし、ご家族で長期にシンガポールに滞在するには、
世帯主が長期滞在に必要なビザ(就労許可)を取得する必要があります。

就労許可の種類には様々のものがありますが、
今回は、その就労許可の一つである「One-Pass」についてご説明します。

現在シンガポールへの移住をご検討中で、就労許可について調査中、
One-Passって聞いたことがあるけど、
・どんなビザなんだろう?
・自分には適しているのだろうか?
と疑問のお持ちの方いらっしゃるのではないでしょうか。
そんな方は是非、この記事を読み進めて下さい。

目次

シンガポールのワンパスってなに?

One-Passは、42023年1月1日にシンガポール政府が、新たに導入を決定したビザです。
One-Passの正式名称は「Overseas Networks & Expertise Pass」。
日本語だと、グローバル人材ネットワークパス(ビザ)とでも訳せるでしょうか?

パスの正式名称、Overseas Networks  Expertiseの頭文字をとって、
通称One-Passと呼ばれています。
決して、1番のパスという意味ではありません。

ただ、One-Passの内容を見てみると、これまでのビザに比べ、
これは1番かな?という項目が多いので、
その意味では、1番のパスというのも間違えではないかもしれません。

このビザは、海外に豊富なネットワークや専門知識を持つ人材を対象としており、
シンガポールの複数の企業で働いたり、他の企業で働きつつも起業したりすることができるビザです。

下記は、MOM(シンガポール人材開発省)のOne-Passに関する記述です。
ここでは「One-Pass」を、
各分野の全てのセクターでのトップ人材を対象とした、個人向け就労パスと表現されています。

Overseas Networks & Expertise Pass
The Overseas Networks & Expertise Pass is a personalised pass for top talent in all sectors, such as business, arts and culture, sports, academia and research.

https://www.mom.gov.sg/passes-and-permits/overseas-networks-expertise-pass

「One-Pass」のメリットとその特徴

One-Passのメリットとは?

One-Passは、今までの就労ビザと異なる、以下のようなメリットがあります。

1.有効期間が5年間と長い
通常のEPの有効期間は、申請時は最長2年。更新時では最長3年です。

また、有効期限は政府が決めるもので、申請者が2年を希望しても、1年しか出ない場合もあります。
「One-Pass」の場合は、最初から有効期限が5年と決まっています。

2.延長が可能である
個人向け就労ビザでも延長が可能です。
高級管理職向けのビザとして、パーソナライズ・エンプロイメント・パスというものがありますが、
こちらは延長が不可です。
パーソナライズ・エンプロイメント・パスについて(MOMのページ:英文)

One-Passも一種のパーソナライズ・パス(個人向け就労ビザ)として位置づけされていますが、
パーソナライズ・エンプロイメント・パスと異なり、延長は可能です。
また、延長回数の制限もありません。
延長の期限は申請時と同様に5年間です。

3.複数の企業で働くことができる
複数の企業での就労。あるいは、一つの企業で就労しながら、新たに法人を立ち上げることも可能です。

4.転職時に新たにビザを申請する必要がない
一般のEPでは、転職する際、現在の職場を離職し、EPをキャンセルしてから、 
転職先で新たにEPの申請をする必要があります。
One-Passは有効期限内であれば、キャンセルすることなく、次の就職先で同じパスが使えます。

One-Passは個人の属性に帰属しているビザである

One-Passは、今までの就労許可と比べると多くの異なった特徴を持っています。
それは、個人の属性に帰属しているビザだからです。

通常の就労許可(EP)は、シンガポール企業に雇用された人材にのみ発給される就労ビザです。
ビザの申請者は、雇用者である企業です。

現在、シンガポールではEP保持者の副業は原則として認められていません。
ただし、One-Passの場合は、
複数の会社での就労や、新たに会社を興してその中で働くことも可能です。

一言で表現すると、通常のEPは企業に帰属したビザと言えます。

対照的に、「One-Pass」はMOMがパーソナライズ・パスと呼んでいる通り、
企業に帰属しているのではなく、個人の属性に帰属したビザです。”

One-Passの申請者が過去において、どれだけ大きな企業での就労実績があり、高額の報酬を得ていたのか。
あるいは、芸術やスポーツの分野でどれだけの実績を残しているかで、
ビザの発行可否が判断されます。

通常のEP申請では必要なCOMPASSや、
政府サイト(MyCareersFuture)での求人広告も義務もありません。

これらのことから、One-Passはこれまでの就労ビザと違う、全く新しいタイプのビザという事ができます。

One-Passのデメリットは?

何か良いことずくめのようなOne-Passですが、もちろんデメリットもあります。
以下でOne-Passでのデメリットを見ていきます。

ワンパスのデメリット

1.申請できる給与額が月額3万ドルと高額である=納税額も高額になる
申請の条件の一つである給与に関して、MOMは下記のように説明しています。

You may apply if you meet at least one of the criteria below:

  • Earned a fixed monthly salary of at least S$30,000, or its equivalent in foreign currency, for the last 12 consecutive months. If you are an overseas candidate, you must also show that you have been working for an established company overseas for at least 1 year.
  • Will earn a fixed monthly salary of at least S$30,000 under an established company that is based in Singapore.

The fixed monthly salary of at least S$30,000 should come from one employer. Other sources of income may be considered on a case-by-case basis.

https://www.mom.gov.sg/passes-and-permits/overseas-networks-expertise-pass/eligibility

上記の文を日本語にすると、以下のような内容になります。

申請には、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。

  • 直近12ヶ月連続で、毎月最低S$30,000の固定給与、
    または同額の外国通貨での給与収入を得ていたこと。

    海外からの応募の場合は、
    海外の有名企業で少なくとも1年間勤務していたことを証明する必要がある。
  • シンガポールを拠点とする有名企業から、
    最低S$30,000の固定月給収入を得る予定がある。

最低S$30,000の固定月給収入は、一人の雇用主からのものとします。
他の収入源は、個別審査の対象となります。

一言で言えば、
最低でも1社から3万シンガポールドルの固定給与を得ていたか、
これから得る予定であることを証明する必要がある。という事です。

One-Passを取得した場合の個人所得税はいくらになるのか?

今まで、会社の代表としてEPを取得する際に推奨されていた月額の最低給与は、
おおよそ12,000Sドルです。

現在、12,000Sドル給与をもらって、EPを取得している人が、
利便性等を考慮し、更新時にOne-Passへ切り替えを検討しているとします。

その場合、一体どのくらい納税額がアップされるのでしょうか。
下記で確認していきます。

まずは、シンガポールの個人の所得税の税率を見てみましょう。

所得範囲税率
S$20,000 未満 免税
S$20,001 – S$30,000 2%
S$30,001 – S$40,000 3.5%
S$40,001 – S$80,000 7%
S$80,001 – S$120,000 11.5%
S$120,001 以上15%
2022年のシンガポール個人所得税税率

上記の表に基づいて計算をすると、2023年度の月収12,000Sドルの方の納税額は、$11,550です。
これが、月収が3万Sドルになると、納税額は$53,350となり、約5倍となります。

現在EPをお持ちで、One Passへの移行を検討している方は、
税額の差額を考慮した上で、それでもメリットがあると判断した場合にのみ、
次回の申請でOne Passを選択することをおすすめします。

2.活動報告義務がある
One Pass保持者は、毎年暦年の終了から3か月以内に、MOMに年間報告書を提出しなければなりません。
必要な情報は、以下を含むことが義務付けられています。

  • 就業についての報告
  • 起業家としての活動報告
  • 現地従業員(がいる場合)についての報告
  • その他の専門的活動(顧問やメンターとしての役割、地元教育機関での教授、講師、兼任講師としての役割、慈善活動への貢献など)についての報告

なお、活動報告義務は、One Passの保持者本人が行う必要があります。
雇用主が代わりに行うことはできません。

簡単に言ってしまうと、
MOMがシンガポールが、ビザ保有者がきちんと報酬を得るための活動を行っているかをチェックすると言うこと。
毎年の活動報告提出が求められることは、MOMの指標に沿った報告ができない場合、
ビザの更新ができないだけでなく、ビザが有効期限内であっても没収される可能性があることを意味します。

3.更新時の条件がかなりハードである
ビザの期限は5年とかなり長いのですが、更新時には下記のいずれかの条件を満たす必要があります。

  • シンガポールで過去5年間、平均月額給与が S$30,000 以上であること。
  • シンガポールに拠点を置く会社を設立・運営し、最低5人のシンガポール人を雇用している事。
    各従業員の月額給与は最低 S$5,000 以上であること(EP 最低賃金基準に連動)。

4.他の就労許可には、記載されていない条項がある
MOMのOne Passに関するページは、他の就労許可には記載されていない、下記の条項があります。
「MOMは、One-Pass保持者に対して追加の情報や文書を随時提出するように要求するかもしれません。」

抜きうちで、追加書類の提出が求められる事があるという意味です。
たとえ5年間のビザが与えられたとしても、ビザ取得の条件が守られていない場合、
いつでもビザがキャンセルされる可能性があります。

The MOM may require One-Pass holders to submit additional information or documentation at any time.

それぞれのビザの違いです

下記の表はOne Pass、パーソナライズ・パス、そして通常のEPの比較です。

パスの種類最低給与更新の可否最長期間ビザの申請者
One PassS$30,000可能5年本人
パーソナライズ・パス (PEP)S$22,500不可3年本人
通常のエンプロイメントパス (EP)S$5,000可能申請時2年、更新時3年企業

それぞれのビザの詳細は、MOMのページをご覧下さい(英文)
One-pass
パーソナライズドビザ(PEP)
通常のEP

One Passはどんな人におすすめか?

さて、このOne-Pass、一体どんな人に向いているのでしょう。
大きく分けて以下の3つに分類できるのではないでしょうか。

1.シンガポールで複数の企業の取締役として就労したい人

現在シンガポールでは、就労ビザ(EP, S Pass, WP)を保持する外国人の副業は認められていません。
就労ビザを申請した雇用主のもとでのみ、働くことができます。

しかし、One Passは申請者がパスの保持者と、これまでの就労ビザと異なるため、
複数の企業のオーナーとして就労し、それぞれの企業から収入を得ることができます。
もちろん、最低給与3万シンガポールドルという条件がクリアできればです。

2.フリーランスで、月に3万シンガポールドル以上稼げる人

今までシンガポールで就労するには、
どこかの企業に所属している(その企業が就労ビザを申請してくれる)必要がありました。
しかし、One Passの申請者は、企業ではありません。

EPを取得する際には、個人の属性に加え、ビザのスポンサーである法人も審査されます。
One Passの場合は、スポンサー不要のため、そのような審査はありません。
これは、スポンサーである法人の問題によって、EP取得が難しかった人にとっては朗報です。

3.現在既に月収ががS$3万を超えており、将来的にも給与額に問題がない人

日系企業では、未だ稀かもしれませんが、外資系の企業のマネージメント以上の層では、
当てはまる人がかなり多いのではないでしょうか。

就労先を一社に限定する必要がない、パスの期限が5年間というのは、
とても魅力的ですが、問題は5年間その状態が維持できるかです。

前項でご説明させていただいたように、いつ政府からのチェックが入るかは、わかりません。
前職で3万シンガポールドルの給与をもらっていたからといって、
その給与が引き続き支払われていなければ、ビザの継続は難しくなります。
5年間それが継続できるかが、重要となります。

まとめ

シンガポールのOne Passは、従来の就労許可とは異なった、様々な魅力を持っています。
ただし、その詳細をきちんと理解せず、
「5年更新だから、とりあえずこちらに変えてしまおう。」
とか
「前職で3万シンガポールドル以上の給与があったので、申請しよう。」
などの安易な考えで、申請・取得してしまうと、将来予期しない問題に直面するかもしれません。

申請の際には、きちんと政府サイトの最新情報を確認し、
不明点は直接問い合わせて見ることをオススメします。



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